中学受験には世帯年収800万円必要!?受験にかかる費用の目安
中学校は義務教育なので、地元の公立中学に進学すれば、本来授業料はかかりません。ですが、そこであえて受験にチャレンジし、私立中学を目指すのは、多くの方が、「お金を掛けてでも、より良い環境を我が子に用意したい」と思われているからでしょう。
本記事では各種統計データなどを元に、どのタイミングでどれくらいの金額がかかってくるのか、中学受験にまつわるお金のあれこれを解説します。
受験にかかる費用
中学受験が可能な収入レベルとは
私立中学の多くは高校との一貫型です。付属校であれば、大学までエスカレーター式に系列校へ進む場合もあります。
つまり中学受験にチャレンジするか否かは、金銭的負担がかかる期間が、長ければ10年以上の長期に及ぶということを、念頭において考える必要があります。受験準備期の小学校高学年〜中学3年間だけで考えたマネープランでは、破綻してしまうかもしれません。
では実際にはどれほどの経済力があれば良いのでしょうか。
文部科学省の「平成28年度子供の学習費調査」によると、私立中学に通う家庭と公立中学に通う家庭の世帯年収別分布は、それぞれ以下の通りです。
私立中学では、世帯年収800万円以上の家庭が70.3%にのぼっている点から、この「800万円」というラインが、私立中学進学の1つの目安になるのではないでしょうか。1000万円以上の家庭が51.9%と半数を占めている点も、かなりインパクトがあります。
しかし400万円未満の家庭も4.2%おり、800万円未満の家庭という括りで見ると29.7%ですので、必ずしも私立進学は年収に依存するわけではないということもわかります。
一方で、公立中学の場合は中間層が最も厚いですが、割合は全体的にばらついています。
ちなみに、私立小学校に進学させているご家庭の世帯年収別分布は以下の通りです。
世帯年収1000万円以上の家庭が62.5%で、800万円以上では77.4%と、私立中学よりも800万円以上の人の割合が上がります。私立進学のタイミングが早ければ早いほど、金銭的負担の大きい期間も長くなりますので、経済力が高い人も多い傾向にあるのではないでしょうか。
必要資金の平均
受験前にかかる費用
受験前にかかる費用の中で、最も大きなウェイトを占めるのが、通塾代です。
もちろん塾に通わないという選択肢もありますが、実際のところは、中学受験を志す人はほぼ全員が通うため、基礎費用であると言っても過言ではないかもしれません。
大手塾(集団指導塾)の場合は、感覚的に以下の金額が一定のラインになるかと思います。
これはあくまで目安額なので、詳細は各塾によって異なります。近くの教室に問い合わせてみるか、資料請求を行って、確認しましょう。
- 通塾費用の目安(年間)
4年生 約45万円
5年生 約70万円
6年生 約110万円
授業時間や模試の頻度が増えるため、学年が上がるにつれ、費用も増える点は、基本的に同じです。特に受験学年である6年生でかかる費用は高く、4年生の倍以上になることはほぼ確実でしょう。
これに加えて、過去問購入費や、所属している塾以外が主催する模試などの受験料がかかってきます。子どもの勉強の進捗次第では、別料金の補講や集中特訓講座なども検討する必要があるでしょう。
また、塾に加えて個別指導や家庭教師を頼む場合は、さらに追加で負担が増します。いずれも集団指導の塾よりも時間単価は高いのが通常です。
個別指導塾はある程度均一化されていますが、学生からこの道数十年のプロまでいる、レベルの差が激しい家庭教師の価格帯は幅が広く、中には驚くほど高額になることもあります。
仮に6年生の時に、塾と同じ頻度(週3、4回程度)で個別指導を頼むとしたら、塾と合わせたトータルの学習費が200万円以上になってしまうことも有り得るでしょう。
一方、数万円程度安いからといって、子どもの適性に合っていないような塾を選ぶことはやめましょう。成績が伸び悩んで、補講をつけなくてはいけなくなるなど、長期的に見るとむしろもったいない結果になる可能性があります。
受験料
積もり重なると、意外に見過ごせない額となるのが受験料です。
多くの学校では、1回につき高くとも3万円ほどに設定されており、通塾代や合格後の学費に比べると、一見安価に思えます。
しかし併願校を多く受けるなどの場合、短期間にかなりの出費となってしまうのです。
具体的にシミュレーションをしてみましょう。東京都発表の「平成30年度都内私立中学校の学費状況」によると、都内の私立中学の受験料平均は2万2880円です。
首都圏の受験では、6〜7校出願するケースが多いことを踏まえ、単純にこの数字へ7をかけると、なんと16万160円にもなります。
なお、ここで注意しておきたいことは、出願校=受験校ではなく、合否次第で次回以降どの学校を受けるか変わってくるのが、中学受験の特性だという点です。そして一度出願した学校は、基本的に返金はできません。
例えば「2月1日に本命のA校に受かったから、3日に受験する予定だった滑り止めのB校は受けなくて良い」となった場合でも、B校の受験料の払い戻しは原則認められないのです(試験を辞退・欠席することはもちろん可能です)。
逆に、「2月3日の時点で合格が一校もないため、チャレンジ校の受験をやめて明日は安全校を受ける」など、急遽スケジュールを変更するといった展開も有り得ます。同日・同時刻に試験を実施する2校に出願しておき、他試験の結果次第でどちらを受けるか決めるといったケースです。
出願校数が多い傾向にあるのは、このように不測の事態が起きたときに備える人が多いためです。
とはいえ、これらはあくまで事例です。家庭ごとに、「第一志望以外は受けず、落ちたら公立に行く」「絶対に私立に行きたいので、たくさん受ける」など、さまざまな考え方があります。
平均値に沿う必要はないので、金銭面だけでなく本人の志望などと合わせて家族でよく相談し、何校出願するか、そして何校試験を受けるかを決めましょう。
受験後にかかる費用
平成30年度都内私立中学校等の学費状況によりますと、東京都内の私立中学の各種費用の平均は以下の通りです。
- 各種費用の平均(都内の私立中学)
入学金 25万4979円(入学時)
授業料 46万8090円
施設費 4万207円(入学時)
その他 18万6140円
初年度納付金合計 94万9416円
3年間費用合計 225万7876円(2・3年生分は入学金と施設費を抜いて計算)
基本的には、入学金などが必要な中学1年生の時の負担が最も大きくなります。
この数字はあくまで平均値です。実際にはこの金額より高い学校もあれば、安い学校もありますので、志望校の募集要項などは熟読しましょう。
その他の必要費用
寄付金
どれほどお金がかかるのか、一番予測を立てづらいのが学校への寄付金にかかる金額ではないでしょうか。
私立中学特有の文化と思われがちですが、積極的に募集することが少ないだけで、公立中学にも寄付金の概念はあります。
文部科学省の子供の学習費調査での平均値は私立と公立でそれぞれ、以下のようになっています。
- 寄付金の平均
私立 4508円
公立 65円
私立、公立共に、意外に少ないと思われた方も多いのではないでしょうか。
寄付金は多くの場合、一口数万円から設定されており、「最低◯口は寄付してほしい」など、学校側からお願いが添えられていることもあります。一方で一切求めないと公言する学校もあるなど、その実態は学校により千差万別です。
おそらくこの数値は、その両極端な実態を取り込んで、かなりならされてしまっていますので、参考とするのは難しいでしょう。
いずれにせよ、寄付金は義務ではないので、強制的に徴収されるということはありません。あくまで任意、かつ気持ちの問題ですので、無理をして出すというのは本来の寄付金の趣旨とは外れます。
また、払わなかったからといって、子どもの成績や待遇が悪くなるということもないので、安心してください。
ネットなどにはさまざまな口コミや噂がありますが、正確なところを知るには、学校の関係者に思い切って尋ねてみるのが一番だと思います。
金銭的な問題なので気後れしてしまうという人は、外部で開催される合同学校説明会など、職員と気安く話せるような場を選んでみるのはいかがでしょうか。
交通費
基本的には歩いて通える距離にある公立中学に対し、私立中学は電車に乗って遠くまで通う場合が多いため、必然的に交通費が多くかかります。同じく文部科学省の調査によりますと、年間の交通費平均は以下の通りです。
- 交通費の平均(年間)
私立 7万7975円
公立 7365円
なんと1年間で約10倍もの開きがあります。さらに長時間通学をする場合は、平均値を大きく超える額となることもあるでしょう。
この差は、高校になると私立高校平均の7万1087円に対し、公立高校平均は4万7552円と縮まります。これは首都圏では公立高校の生徒も電車通学を始めることが多いためです。
交遊費
子ども同士、親同士の付き合いというものは、公立中学であろうと私立中学であろうと、何らかの形であります。
例えば「保護者会」や「運動会の朝練習」といったもののほかに、「ママ友とのランチ」や「文化祭の打ち上げ」など、お金がかかるようなイベントもあるでしょう。
それぞれ具体的な平均価格を出すことは大変難しいですが、おそらく月に数万円もかかるということは、あまりないと思われます。
ただ、さまざまな地域から子どもが集まってくる私立では、公立のように「友達同士で、歩いて行ける距離の誰かの家に行って遊ぶ」といったようなことがなかなかできないため、交通費や飲食代(カフェなど)も含め、比較的交際に関係する出費が多くなる傾向にはあるかもしれません。
公立との比較
ここまでは私立校でかかる金額を総合的に解説してきました。
それらを踏まえ、ここからは私立校と公立校を比較し、中学・高校・大学それぞれの段階で、どれほど金額が変わってくるのか、順番に見ていきましょう。
中学校でかかる費用
文部科学省の平成28年度子供の学習費調査を出典元とした、中学校でかかる年間の平均費用は、以下の通りです。
なお、学校教育費には、授業料の他に修学旅行や実験器具等にかかるお金なども含んでいるため、授業料無償の公立でも一定額かかっています。
学校外活動費は、塾や習い事などにかかる支出のことです。(以下のセクションも同一)
1年間の差 84万8379円
3年間の差(×3をした値)254万5137円
上記を見てもらえれば分かるように、公立中学校と私立中学校では、かかるお金に非常に大きな差があり、学習費全体に占める各費用の割合も大きく異なります。
なお、学校給食費については、私立中学はお弁当・あるいは学食制度のところが多いため、低くなっているのだと推測できます。
このため一見公立より安く見える私立中学も実際は、公立中学と同等か、少し多いくらいの昼食代がかかっていると思われます。
一方、学校外活動費については、若干私立が多いものの、他の項目と比べると大きな差は見られません。
詳しくは、後述の中学以降の塾代で解説します。
高校でかかる費用
中学でかかる費用の項と同様に、文科省の調査を元に作成した、公立高校と私立高校の差は以下の通りです。なお、私立高校は通信制などを除いています。
1年間の差 58万9306円
3年間の差(×3をした値) 176万7918円
高校では公立でも授業料がかかるようになった分、差額は中学よりは少ないですが、それでも3年間を通せば約180万円の差となります。
大学でかかる費用
大学になると、国立・私立の差だけでなく、学部学科によっても費用が変わってきます。
日本政策金融公庫の教育費負担の実態調査によると、それぞれ平均値は以下の通りです。
※参考
入学費用には「受験料、入学金など」の他に、「入学しなかった学校への納付金」や「受験のための交通費、宿泊代」などが入っています。また、在学費用には「学校教育費(授業料、通学費、教科書・教材費など)」と「家庭教育費(塾やおけいこごとにかかる費用、参考書・問題集の購入費など)」が入っています。
高度な教育を施す大学では、4年間という長さも相まって、学習費が非常に高額になることがわかるでしょう。
6年制の薬学部や大学院進学を考える人は、さらにプラス2年分と考えてください。
また、大学生にもなれば親元を離れ一人暮らしをする人も多くいますが、その場合は住居費・食費・水光熱費などの費用も別途かかってきます。
中〜大までの総額
ここまでの項目で、各セクションにおける、私立・公立それぞれの費用感はご承知いただけたかと思いますが、総額となるとどれほど違うのでしょうか。
中学から大学までの道のりには、分岐点がたくさんありますので、いくつかのパターンを例示します。
理論上もっとも高額となるのが、幼稚園から大学まで全て私立で過ごすケースで「2544万7401円」です。一方、幼稚園から大学まで全て国公立で過ごす場合は「1045万5949円」となり、単純に計算するとその差は約1500万円にもなります。
実際には、「中高と公立校に進学し、大学のみ私立」という人もいれば、「私立の中高一貫校を経て、大学は東京大学など国立の最難関を目指す」という人もいるでしょう。
上記の表をご自身の描くプランと照らし合わせて、大体いくらかかるのか、計算してみてください。
中学以降の塾代
学習費には、授業料などの学校に関連する費用と、通塾などにかかる補助学習費用の2種があります。
私立中学を受験するメリットの一つとして、「学校側が手厚い学習的サポートをしてくれるので安心」「高校受験がないので、のびのびとできる」という点がしばしばあげられます。これは解釈次第では「私立中学ならば補助学習は必要ない」と結びつけることもできますが、実情はそうでもないようです。
文部科学省の平成28年度子供の学習費調査から作成したのが、下記の表です。
実際に公立中学の方が、補助学習費用は上回っているとの結果が出ました。
おそらく高校受験にチャレンジする公立中学の3年生では、ほとんどの人が塾に通っていると思われます。
ただ、公立より少ないというだけで、「私立進学をした中学生が、学校外の補助学習を行っていない」ということではない点には注意が必要です。それを踏まえ、高校生の場合を見てみましょう。
中学と高校では結果が逆転し、私立高校の生徒の方が補助学習にお金をかけています。
私立中学(高校)の行う補講が不満というよりは、万全を期したいのでしょう。
私立高校生の中でも、特に中学受験を経験した家庭は、元々教育意識が高く、大学進学に対しても積極的に投資を行う傾向にある印象です。
実態としては、特に上位校の場合、塾に行ってない方がマイナーであると思います。
ちなみに、補講の実施などの学校による学習サポートに特に力を入れているのは、著名大学への進学実績を上げたいという思いが背景にあるからか、中堅~上位校が多いようです。
中には厳しい指導を行う学校もありますが、保護者からの人気も高くあります。
受験費用に向けた備え
それぞれのご家庭でマネープランを作ることはもちろん必要ですが、受験に向けた金銭的な備え方には、さまざまな選択肢があります。
ライフスタイルの変更
母親の就業
専業主婦であった母親が、新たに仕事を始めるということも、金銭的備えとして当然考えられる選択肢です。
世帯収入がどれだけアップするかは、職種や就業形態にもよるので一概には言えませんが、受験生は高学年で、手のかかりにくい年齢です。下の兄弟次第ではありますが、長時間の労働も見込めます。
ただし、「扶養控除を外れる場合」などについては、どうするか考えておきましょう。
夫の扶養に入っていた場合、妻の収入が一定額以上を超えると、配偶者にかかる控除を受けられなくなってしまいます。
具体的には妻の収入を、所得税の扶養控除「150万円以下」や社会保険の扶養の条件である「130万円以下」に設定するかどうかで、変わります。
例えば週2日・各3時間など、働くペースは必要最低限に押さえておくというパターンや、控除を受けられなくなったとしても、それを補うほど収入を多くすれば良いという考えの元、正社員になってバリバリ働くという手もあります。
夫婦で家庭の方針をよく話し合うことが必要です。
習い事の整理
小学生の習い事は、文化系・運動系・勉強系に大別され、一つのものに打ち込んでいる子もいれば、文武両道を目指して英語と空手など、複数のお稽古に取り組む子など、さまざまです。
中学受験生の場合は、学年が上がるにつれ忙しくなってくるため、体力的な問題から塾以外の習い事を辞める人が多いでしょう。月謝がかからなくなるという金銭面のメリットもありますが、どちらかというと付属効果です。
具体的には、遅くとも5年生の半ばぐらいには選択の機会がやってくるでしょう。
特に週に何日も通っているものは、体力と時間を奪い、勉強とどっちつかずの状態になってしまうので、どちらに対しても非常にもったいないことになってしまいます。
傾向としては、男の子はスポーツ関係を残したがります。大会だけはどうしても出たいなど、気持ちが揺れることも多いようです。
女の子の場合はバレエ、スイミングなどに力を入れているようですが、男の子と比べれば習い事を整理することによるメリットの理解も、早い印象があります。
そろばんや習字などの教育的な習い事ならば…と思われるかもしれませんが、どうしても塾との兼ね合いは難しいというのが実情です。
習い事がなくなった分、勉強の時間もそうですが、休息の時間も取りやすくなります。散歩などで、気分転換を行うのが良いでしょう。
まとめ
中学受験やその先の進学にかかるお金について、誤解していた部分も多いのではないでしょうか。大切なのは、それぞれの家庭にあったマネープランと進学ロードマップを立て、万全な備えを用意することです。家族会議を開くなどして、計画的に進めていきましょう。
この記事の監修者
小泉浩明 (こいずみ・ひろあき)
1956年東京生まれ。平山入試研究所所長・森上教育研究所研究員。桐朋高校・慶応大学卒業後、米国にてMBA取得。現在は「小泉国語塾」の運営、執筆、教務研究を行う。著作に「必ず出てくる国語のテーマ」(ダイヤモンド社)他。
詳しいプロフィールはこちら